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ぽぜおくんの憑依日記

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髪は愛なり

(2017/8/26追記)
めた子さん(https://twitter.com/metako_metamon)さんから挿絵を頂きました! まさに完璧な髪を体現したイラスト、有難うございます!
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どれだけ思い焦がれようと手の届かない物はある。たったそれだけのごく単純な事実を、しかし僕はどうしても受け入れることが出来なかった。触りたい。嗅ぎたい。何なら食べてしまいたい。視界にそれが映り込む度、そんな思考に苛まれる。いわゆる髪フェチであるところの僕にとって、それはまさしく受難の日々そのものであった。

今日もまた僕は市営のバスに揺られ、キャンパスまでの小一時間の旅路に就いていた。いささか交通の便が悪いこの街のこと、いい加減車なり原付なりを買うべきなのかもしれない。だが少なくとも、今の僕には敢えてこの足を選ぶに足る十分過ぎる程の理由があった。
さりげない風を装いながら視線を斜め前方の座席に向けると、そこにはいつもと変わらずあの娘が座っていた。いつもと変わらず美しい、本当に美しい後ろ姿だ。あまりじろじろ眺める訳にもいかないので、それだけ確認すると僕は再び目を伏せた。
半年程前に初めてその姿を目にして以来、名前も知らない一人の少女の為に、僕は毎朝このバスに乗り込んでいたのだった。

「はぁ、今日も綺麗だなぁ……」

思わず溜息が漏れてしまうのもかれこれ何度目だか分からない。その艶やかで瑞々しい黒髪を視界が捉える度に、僕は幾度と無く溜息を吐き、あるいは唾を飲み込んだ。ここまで美しいモノには今後生涯出会えないかもしれない。そう思える程の逸品に、高々早起き一つするだけでお目にかかることが出来るのだから安いものだ。毎朝同じ便に乗り込んでくれる彼女には感謝する他ない。
通う先は付近の高校だろうか。制服や背格好から察するに、多分そうなのだろう。乗車は始発近いバス停なのか、車両前方の一人掛けの座席が彼女の定位置だった。おかげで後は時間さえ合わせてしまえば、大抵の場合はこうして後ろから眺めていられるという訳だ。
改めて自分の行いを振り返って見ると何だかストーカーも同然に思えてしまうのだが、しかし実際問題あれだけの代物を敢えて逃す理由も無いものだ。街中の女性たちを眺めてみても、美しいと断言出来る髪の持ち主などほぼ皆無。パサパサ、ゴワゴワ、挙げ句は染色の上塗りだ。
それが彼女はどうだろう。紺色のブレザーの上にあっても尚、存在感を保ち続ける艶やかな輝き。水をその内に閉じ込めたのかと見まごう程の潤い。身動き一つ一つに伴って姿を現すハリとコシ。力無く垂れ下がるでもなく、かと言って無為に跳ねることもない適度な纏まり。毛先に至るまで丹念に手入れした様子が伺えるそのロングヘアは、まさしく彼女の命そのものだった。完璧と言う他ない。

「…………」

右ポケットに忍ばせた小瓶を握り締め、僕は再び溜息を吐いた。
人間の欲望には際限が無いものだ。最初の内は眺めているだけで満足だった。彼女の後ろ姿一つでその日一日を乗り切ることが出来たし、自分は世界一の幸せ者だと思うことが出来た。
その内に座席の背もたれが疎ましく思えるようになった。視線を阻む邪魔者に思えて仕方がなかった。だがどうしようもないことだというのも同時に理解していたので、バスを降りる際に彼女の横顔をこっそり覗き見ることで鬱憤を晴らした。耳に掛かった黒髪もまた、後ろから眺めるそれと変わらず美しかった。
眺めるだけでは飽き足らず、遂には直に触りたいとの欲求が沸き上がってくるまでにそれ程時間はかからなかった。許されないことだというのは分かっていた。倒れ込んだ振りでもして触ってやろうかという馬鹿げた考えが頭をよぎったことも有った。だが仮にそれが叶ったとしても、次なる欲求が顔を出して来るだけの話だ。時折指先で自分の髪を整える彼女の姿が羨ましく、妬ましくすらあった。
触りたい。嗅ぎたい。食べたい。解決策が必要だった。

「一粒二時間、一度きり……」

そして僕はそれを迷うことなく飲み込んだ。喉の奥に焼けるような感覚が広がり、壊れたビデオテープのように視界がのたくり、次の瞬間僕はバスの天井近くを漂っていた。

『成功……したのか』

その呟きは音として発されることはなく、僕の中で幾度か反響して消え去った。怪しげな通販サイトで手に入れたその錠剤は、信じ難いことにどうやら本物だったらしい。
幽体離脱薬。服用すれば魂と身体が切り離され、宙を漂う幽体となる。自由に飛び回ることが出来、如何なる壁もその歩みを阻むことは叶わない。夢物語のような話だが、眼下の座席に寄り掛かる自分の身体を目にしては信じざるを得ないと言うものだ。

『これで……やっと……』

如何なる壁にも阻まれない。それは他人の身体といえども例外ではない。肉体を掻い潜り、その内に在る魂の外壁をこじ開け、更に入り込んでしまえばどうなるか。気付けば僕は車両前方の座席に座る、一人の女子高生の前を漂っていた。

『あぁ、あぁ……目の前に……』

目の前には一面の黒髪が迫っていた。これ程までに近寄っても、彼女は不審がる素振りを見せる気配すら無い。これだけでも今までの僕には決して叶わなかったことだ。
彼女はどこに視線を合わせるでもなく、ただ足元の方をぼんやりと眺めていた。こうしてまじまじと観察するのは初めてのことだが、改めて見ると髪だけでなく、その容姿も相当可愛い部類に入るのではという感想を抱いた。整った風貌の中にもどことなく柔らかな雰囲気を備えた、理想的な顔立ちだった。美しい髪の持ち主というものは、やはりそれに見合った容姿を兼ね備えているものだ。
そう、美しい髪が。すぐ傍から見ても粗の一つも見出だせない完璧な髪がそこにはあった。もうすぐその全てが僕のものとなるのだ。

『ごめん、ちょっとだけ身体、借りるね』

長く長く待ち望んだその時が訪れた。僕は本能の赴くままに、彼女の背中に垂れる黒髪に向かって、齧り付くかの如く頭を突っ込んだ。

「ひっ……!?」

甲高い悲鳴が聞こえた。髪目掛けて迫った僕の頭は空を切り、代わりに彼女の身体の中へと潜り混んでいた。次いで文字通り身体が溶けていくかのような、奇妙な感覚が僕を襲った。

「なっ……えっ、あ、いやっ……」

溶け込むと同時に、何やら暖かい温もりが僕の身体を包み込んでいく感覚があった。それは恐らく彼女の体温で、びくんびくんとした痙攣めいた動きで身体を震わせる感覚さえも、徐々に徐々に僕自身のものとして取り込みつつあった。

「あっ、うぁっ……あっ……あ、ふぅ……」

身体の震えが、急に襲ってきた悪寒が、喉から溢れる呻き声が止み、そして僕は小さく息を吐いた。彼女の喉を、唇を通して呼気が漏れ出ていくのを感じた。窓から差し込む日差しを、空調から流れる冷ややかな風を、風を遮るブレザーと太腿に触れるスカートの生地を肌で感じた。
息を吸った。排ガス混じりの淀んだ空気と、汗の混じったポリエステル生地の臭いと、甘いシャンプーの香りがした。シャンプーの香り。それを漂わせるのは、頬を撫でるこの感触は……。

「あ……」

目を開いた。髪があった。瞼の上から被さる前髪と、頬を撫でる横髪と、肩越しに顔を覗かせる後ろ髪。傍目からは漆黒に見えたその髪は、彼女の眼前ではメラニン色素を介した木漏れ日の中で、微かな茶色を呈していた。

「あっ……あぁ……」

言葉にならなかった。左右を見回せば甘い香りと共にふわりと絡み付き、下を見ればブレザーに包まれた膨らみの手前で艶やかな輝きが視界を覆い尽くす。心配そうな視線をこちらに向ける他の乗客のことなど、最早視界の外だった。

「あぁっ、あぁっ、髪だっ、髪っ」

肩から垂れた一房の髪を握り締めれば、彼女の小さな掌の中で極上のキューティクルが擦れ合う感触が振り撒かれた。心臓が張り裂けそうだった。夢にまで見たあの髪が、今こうして僕の手の中にあるのだ。
何度か拳を開閉し、そのまま指を広げて後ろ髪をすいてやる。櫛の役目を担った指の間で、嘘のように滑らかに髪が流れ落ちていくのを感じた。彼女の体温を僅かに帯びた艶やかな糸たちを、撫でて撫でて撫で尽くす。一生こうしていられるのではと思える程の、まさしく至福の一時だった。

「はぁ、はぁ……」

か細い吐息は徐々にその勢いを増し、芳しい香りで肺が次々と満たされていく。呼吸一つを取っても、それは彼女の髪を讃える行為に他ならなかった。
このまま彼女の髪を愛で尽くしてやろうかと思った矢先、しかしふと思い至った。ここでは場所が悪い。こんな狭苦しく、おまけに人目の有る車内では十分に楽しむことなど出来はしない。それも本来は折り込み済みで、元々の計画ではすぐに降車するつもりだったのだが、思わず我を忘れてしまっていたようだ。
ふと周囲を見ると心配気な空気はどこへやら、今や彼女に対しては怪訝な表情や軽蔑の眼差し他、決して好意的とは言えない視線が痛い程に注がれていることに気が付いた。それはそうだろう。この娘はバスの車内で突然叫んだかと思えば、恍惚として自らの髪を弄び始めたのだから。

「あー……いや、はは……」

必要以上にこの娘に迷惑を掛けるつもりは無かったのだが、と反省した僕は笑って誤魔化しつつ頭を掻いた。地肌に触れた指先に、艶のある髪の毛が絡み付く感触がした。
降車ボタンを押し、運良く間髪入れずに停車してくれたバス停でそそくさと席を立つ。降車口へと向かう途中、自然と腕が鞄の中に有った定期入れを取り出し、精算まで済ませてくれた。この娘自身の意識は眠っている筈なのだが、恐らくある程度のことは身体が覚えてくれているのだろう。それと同時に降りるべきバス停はまだ先だとも身体が訴えかけてきたような気がしたが、そちらの声は無視させて貰うことにした。

「一時間と五十分ちょい、か」

バス停に降り立ち、制服のポケットからスマホを取り出し時刻を確認。残された時間は多くはない。他人の魂を捩じ込まれることはその身体の持ち主にとって相当な負担となるらしく、こうしていられるのはせいぜい二時間、おまけに一度きりが限度で、それを過ぎれば魂の器が壊れてしまうのだとか。
既に散々好き勝手な真似をしておいて言うのも何だが、この娘に危害を加えることは本意ではなかった。だからこそ、一分一秒を何よりも大切に過ごさねばならない。

「どこかに良い場所は……」

当初はネットカフェの個室を使う予定だったのだが、適当なバス停で降りてしまった以上それも叶わない。まとわり付く髪を振り払いながら、僕は周囲を見渡した。

「お、あそこ良いんじゃないか」

幸いにもお目当てのスポットはすぐに見付かった。バス停前に位置するその公園には、共用のトイレが設置されているようだった。平日のこの時間帯なら他に人もいないだろうし、悩んでいる時間はない。肩に掛けた鞄を持ち直し、いそいそと歩を進めた。
スカートが太腿に擦れ、ブラジャーに支えられた胸がその存在を主張し、そして長い髪が風になびく。そんな感覚が一歩一歩を踏み締める度に現れては消えて行き、否が応でも興奮が高まってくる。
そうこうしている内に件の公園にたどり着いた僕は、迷うこと無く女子トイレへと入って行った。途端鼻をついた芳香剤の臭いが少々気になったが、背に腹は変えられない。一人で楽しむことが出来るだけでも十分過ぎるというものだ。それに何より……。

「……」

そこには彼女が立っていた。洗面台に据え付けられた鏡に映る女子高生と、黒く艶やかな黒髪。僕が笑い掛けると、彼女も少し赤らんだその顔をぎこちなく綻ばせて見せた。ここなら彼女を、この髪を好きなだけ堪能出来る。そう確信した。

「ええと……」

鏡を前にして半ば反射的に持ち上がった掌が、長い黒髪の一端を掴まえた。無意識の内に行われたその行動は、恐らく彼女自身の癖なのだろう。僕はそれに逆らうでもなく、鏡に映る少女がくるくると指先で髪を弄る姿をしばらく眺めていた。

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「……さて」

指の動きが止まり、それと同時に漏れた微かな呟き。鏡の中の彼女の瞳は、期待と興奮に満ち溢れているように見えた。ここからは僕の時間だ。
洗面台に手を付き身を乗り出してみる。目の前にまで迫った彼女の顔と、それを縁取る艶やかな黒髪たち。顎を引けば肩の向こうから次々と後ろ髪が流れ落ちてくる。合わせて頭を軽く左右に振ってみると、ぱさりと一房の髪が新たに顔を覗かせ、次いで甘い香りが鼻腔を蕩かした。視線を上に向けて見ると、少し乱れた髪の中で頬を上気させた少女が上目遣いでこちらを見つめていた。
「ふふっ」と可愛らしく笑った彼女は、今度は流した髪をありったけ掴むと、それを顔の前に持って来るや否や鼻の辺りに押し当てた。すかさず大きく息を吸い込み、シャンプーの香りをここぞとばかりに堪能する。

「すー、はー……」

吸って吐いて、また吸って。彼女の鼻腔を、彼女の匂いで満たし尽くす。鏡の中の彼女は恍惚とした表情でそんな行為を繰り返している。そうさせておいて言うのも何だが、随分と変態的な光景だ。心臓が再び早鐘を打ち始め、脳から産み出された興奮物質を全身にくまなく運んで行く。

「あっ……」

ふと股間の辺りに違和感を覚えた。抑えきれない僕の昂りが、彼女の身体を通して蜜となって現れたようだ。脈打つ度に股間がきゅんと締まり、下着の中を徐々に湿らせていく。
酸素を求めて荒さを増しつつある呼吸は甘い香りを放ち続ける髪に阻まれ、満足に役目を果たすことが出来ていない。頭がくらくらするのは果たしてそのせいか、あるいは興奮の為か。顔の前で捕まれた髪の束を一端離して、小休止。

「はぁっ……はぁっ……」

鏡の中で息を切らせる彼女の表情は切なげで、少し乱れた黒髪が実に良く似合っていた。大きく二回深呼吸し、手櫛で髪型も整える。指の間を髪が滑る感触にまた股間が疼き、これではキリが無いと少し可笑しくなった。しかしまだまだ、やりたいことは山程残っているのだ。
洗面台に放り出していた通学鞄の中を漁り、更にその中のポーチからヘアゴムを取り出して台の上に一旦投げ出す。その間呼吸を整え、今一度鏡に向き直した。

「良かった、無かったらどうしようかと」

彼女の口から溢れた涎をそっと袖で拭い、そしておもむろに両手を頭の後ろに回し、後ろ髪を持てる限り鷲掴みにした。髪に埋もれた掌で彼女の体温を感じつつ、まさぐるように両手をすぼめてやる。ボリュームの有る黒髪は重力に逆らいながら一束に纏め上げられ、見事なポニーテールを形作った。

「これこれっ、これが見たかったんだよ」

バスの中で見かける彼女に対して僕が唯一不満を抱いていた点は、その髪型がいつも降ろしっぱなしのロングヘアに留まっていたことだった。それはそれで完成された美しさであると言えなくもないのだろうが、この髪を以てすればさぞかし綺麗な造形美を為すことが出来るだろうと常々思っていたのだ。
その読みは間違っていなかったようで、今両手の隙間から顔を覗かせているその流線形の美しさたるや、また思わず股間が疼いてしまった程だった。片手でそれを押さえつつ、急いで洗面台の上からヘアゴムを拾い上げ、括り付けながら形を整えてやる。二つの腕は自然と手際良く動き回り、いそいそと髪を結い上げて行く。きっと彼女自身、体育の時などはこうして髪を纏めているのだろう。何度かゴムに髪を通す過程で上下に元気良く跳ね回る髪の束を目にして、最早僕の興奮は最高潮に達していた。

「ああ、もうっ……」

下着からは既に受け止めきれなくなった愛液が溢れ出し、幾つもの筋を作りながら太腿を伝い落ちて行った。気を抜けば腰がかくかくと独りでに震え、地面にへたり込んでしまいそうになる。負けじと鏡に映る彼女の姿を目に焼き付けようとするが、どうにも視界が覚束ない。
如何に僕が興奮しているとはいえ、この反応はいささか過剰ではないか。恐らく彼女の身体自体、これ程までに滾りきった精神を受け入れるようには出来ていないのだろう。ただでさえ無理に身体に押し入るという真似をしているのに、こんな具合では少し心配になってしまう程だ。

「はぁ、はぁ……ふぅー……」

ともかくこれでポニーテールの完成だ。改めて息を整え、すっかり前屈みになった上半身に活を入れて起こしてやる。
再び鏡に目を向けると、そこには少し呆けた顔をした少女と、綺麗に結い上げられたポニーテールが映っていた。どちらかと言えば大人しそうなタイプに見えた彼女も、こうして見ると明るく快活そうな印象を抱いてしまうから不思議なものだ。

「うん、似合ってる似合ってる」

そう言って嬉しそうに笑う彼女の姿を見ていると、思わずこちらまで気分が浮き立ってしまう。せっかくなので頭を振ってみたり軽くジャンプしてみたりして、ポニーテールが肩の上で生き生きと跳ねる姿を存分に楽しんだ。
結い上げられた根元近くに指を差し込めば、密度の有るキューティクルが指先を愛撫した。先端を顔の前に持ってきて息を吸い込めば、何だか一味違う気がするシャンプーの香りがした。何をやっても飽きが来ない。

「さてさて次は……」

両手で掴んだポニーテールを最後に一揉みしてから、思い切ってヘアゴムを緩めて外してやる。ぱさりと黒髪が落ちて来たかと思えば、そこには元のロングヘア姿に戻った彼女の姿があった。名残惜しいが仕方がない。時間は限られているのだ。
額から垂れてきた汗を拭うと、すっかりシャンプーの香りが染み付いてしまった掌から何とも言えない匂いが漂ってきて、直後にびくんと大きく腰が震えた。

「んっ……」

嬌声とも悲鳴とも取れるその身体の疼きは、刻々とその強さを増していた。既に下着は尻の方に至るまでびしょ濡れだ。そろそろ本当に限界が近いのかもしれない。しかし彼女は再び髪の一端を掴み上げ、こう呟くのであった。

「もうちょっとだけ我慢してね、っと」

そうしてまた彼女とその髪は、鏡の前で繰り広げられる淫劇に興じ続けた。
ツインテール、ツーサイドアップ、サイドテール、サイドダウン、ハーフアップ、三つ編み、編み込み……。様々な表情を見せてくれる彼女の髪を前にして僕の心は昂るばかりで、何度も何度も絶頂に至りながら、ただその至福の一時に身を委ねていた。
しかしどんな事にも終わりは有るもので、それは突然に訪れた。次なる髪型を模索しているその最中、がくんと膝が折れ半ば倒れる形で壁に打ち付けられた僕は、そのまま起き上がることも出来ずにトイレの床にへたり込んだ。結びかけだった髪とヘアゴムを取り落としてしまうも、手が上手く言うことを聞いてくれず拾い上げることすら叶わない。

「あ、あれ……」

弱々しく絞り出された声に霞んだ視界。どうやら刻限が迫っているらしい。まだ一時間半も経っていない筈だが、やはり無理をさせ過ぎてしまったのだろう。やりたいことは未だ残っているのだが、こればかりは仕方がない。僕が欲をかいたばかりに彼女が、彼女の髪が失われてしまうなどそれこそ本意ではないし、許されることではない。
もう彼女としてこの髪を楽しむことは二度と叶わないが、またあのバスに乗れば会うことは出来るのだ。そう言い聞かせながら鉛のように重い腕を何とか持ち上げ、肩に掛かった髪を最後に一撫でした僕は、断腸の思いで彼女の身体から抜け出した。

「あぅっ……」

呻き声の主は最早僕ではなく、振り返れば力無く壁に寄りかかる彼女の姿があった。すっかり乱れ切ったその髪もやはり美しく、名残惜しさを振り切るべく踵を返した僕は、『お大事に』とだけ呟いてその場を後にした。

* * *

昨日は散々だった。
気が付いたら知らない公園のトイレにいたなんて言える訳もないし、あんな状態で学校に向かう訳にもいかないし、お母さんには具合が悪くなったとは伝えたけれど、サボりだと思われても仕方がない。
夢遊病の気でもあるんじゃないかと思ったけど、誰かに相談するのも躊躇われるし、もう踏んだり蹴ったりだ。実際、あれから何か調子がおかしいというか――

「里奈、どうしたのボーッとして」
「え、あっ……ごめん、なんでもない」

千秋に呼び掛けられてはっとした私は、慌てて取り繕った。気を抜くとすぐこれだ。

「まだ具合悪いの?」
「ううん、大丈夫。ありがと」

隣の瑠美まで心配そうな顔をして声を掛けてくる。普段は遅刻の一つもしない私が無断欠席なんてしたものだから、朝からずっとこの調子だ。実際ボーッとしている私が悪いのだろうけど。

「ならいいけど。それでさ、この前行ったお店がね……」

瑠美は小学校からの親友で、家が近いこともあってよく一緒に遊ぶ仲だ。どちらかと言うと活発なタイプで、所属しているバスケ部ではエースを務めているらしい。今日も練習が有るのか、艶のある茶髪をポニーテールで纏めていた。染めているのにどうしてあんなに綺麗な髪をしているのだろう。何か良いヘアオイルでも使っているのか、今度ちょっと聞いてみることにしよう。

「あー、あそこ良かったよね。里奈も今度行こうよ」

千秋は今年から同じクラスになったばかりだけど、妙に気が合って今では友人同士だ。少し癖のあるショートヘアが印象的で、出来ればもう少し伸ばせばいいのにと勿体無く思うのだけど、毛先まで良く手入れされたきめ細やかな黒髪は思わず触りたくなってしまうほどで――

「ねぇ里奈、ほんと大丈夫?」
「うん、ちょっと顔赤いし、保健室行った方が……」
「えっ、あ……ごめん、私……」

またやってしまった。昨日からずっとこの調子だ。二人の心配そうな顔を直視することが出来ず、思わず俯いてしまう。すると横から髪と、甘い香りと、艶やかな髪が垂れてきて、視界を覆い尽くして、シャンプーの香りがして、また髪が垂れてきて。

「あっ……」
「里奈……?」

艶やかな髪だ。瑠美の髪よりもずっと潤いのある、千秋の髪よりも纏まりの良い、絶えず甘い香りを放つ髪が、次から次へと。

「あ、あぁっ……」
「ちょ、ちょっと里奈っ」

触りたい。嗅ぎたい。何なら食べてしまいたい。ここでそんなことをしてしまえば、二人はもう口も聞いてくれなくなるかもしれない。でも、それでもどうしても耐えられなくて、気が狂いそうになりながら拳を握りしめて私は言った。

「……ごめん、ちょっと保健室行ってくる」
「えっ、うん……着いていかなくて大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫だから……」

言い終わらない内に席を立って、足早に教室の外へと向かう。外に出る時、残された二人が本当に心配そうな様子で私の方を眺めているのが目に入って、少し心が痛んだ。でもこれで、これでようやく好きなだけ――

「はぁっ……はぁっ……」

全力で走った。保健室はとっくに通り過ぎていたけれど、構わず走った。脚を踏み出す度に髪が風になびいて、躓く度に頬に髪が絡み付いて、息を切らせる度にシャンプーの香りでむせ返った。
体育館裏のトイレまで一直線に向かった私は、汗も拭わないまま個室に駆け込んで、すぐさまドアと鍵を締めると便座の上に身を投げ出した。

「ああっ……!」

後ろに流した髪をありったけ掴んで、汗に塗れた顔面に押し当てて、思いきり息を吸い込んだ。甘く芳しいシャンプーの香りが鼻腔を蕩かして、肺を満たした。
髪を掴んだ左手はそのままに、肩から垂れた髪を右手を櫛代わりにして思い切りすいた。指の間を髪が流れて、手汗にシャンプーの香りが染み付いて、脚の間からは蜜が溢れた。

「あっ、あっ、これ、この髪っ」

ずっと触りたかった髪が目の前にあった。私の頭から生えていた。なんでこんなにも美しい、いやらしいものが私に、すぐ傍にあるのかが理解出来なかった。

「あっ、ああぁあっ……!」

腰が震え、下着からは幾つもの滴が垂れ落ちた。頭を振って、何度も振って私の髪が私の顔を打ち付けて、甘い香りが振り撒かれたのをまた吸い込んで……

「はぁ、あぁ……」

多分、私は壊れてしまったのだと思う。でも不思議と嫌な感じはしなかった。こんなにも美しい髪が傍にあるのだから、それだけで幸せだった。
これまでも髪にはそれなりに気を使ってきたつもりだった。けれどこれからはこのかけがえ無いモノを、もっと大切にしていこうと思う。毎日綺麗に洗ってあげよう。ブラシも欠かさないようにしよう。代わりのモノなど、どこにもない。髪は女の命なのだから。

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コメント

エロすぎです!感動しました
ありがとうございます
えっと、良ければ次は「体臭は愛なり」や「足は愛なり」見たいんですが
(^^;)

愛のあるフェチって、素晴らしいと思うんです
髪への愛あふれる描写で明日からは髪を直視できないかもしれません
ごちそうさまでした

憑依による器への悪影響といえば、多重人格探偵サイコにも似たようなシチュがありましたね、強烈すぎる人格を普通の人に憑依させると反動で廃人になるという

Re: タイトルなし

> チラさん
有難うございます! エロいの一言が糧になります!
体臭は割と考えているのですが、足は完全に門外漢なのです。ごめんなさい…

Re: タイトルなし

>七篠権兵衛さん
有難うございます。髪はエロいものですからね。仕方ないですね…
サイコは読もう読もうと思って未読なのですが、そんなシーンも有るんですね。ちょっとチェックしてみます

性癖が移ったり、元の人格を残しつつ徐々に憑依対象者の精神に影響が出てくる展開が好みなので、今回の作品を読む事が出来てとても嬉しいです。
ありがとうございました

(^^;、

フェチで精神汚染な憑依 すごく良かったです
自分の髪フェチにだけ熱中する憑依もそれで性癖が歪んでしまう女の子も良かった

Re: タイトルなし

>ななしさん
元々は添え物程度のつもりで付けたエピローグだったのですが、そう言って頂けると書いた甲斐が有りました
何の罪も無いのに髪フェチにされてしまった女子高生は尊いものですね

Re: タイトルなし

> (^^;、
重々承知しております

Re: タイトルなし

> フェチで精神汚染な憑依 すごく良かったです
> 自分の髪フェチにだけ熱中する憑依もそれで性癖が歪んでしまう女の子も良かった
有難うございます。性癖が歪んでしまうくだりは良いアクセントになったようで何より
フェチなアレは受けが狭いかと思いきや、熱い感想を沢山頂けて嬉しい限りです

新作待ってました!
以前コメントさせてもらいました。
ぽぜおさんに聞きたいんですが、このような乗っ取り憑依系の話があるおすすめのサイトとかないですか?できれば教えてほしいです。

Re: タイトルなし

>ひろさん
コメント有難うございます。
当サイトのリンク先はどれもお勧めですが、それ以外となると…
小説ならT・Jさんのところでしょうか。80%憑依が好きでした。
ステイルメイト(ステテコメイト)さんのカスタム少女を使用したステ部屋も良く通ってます(閉鎖済ですが閲覧は出来ます)
既にご存知でしたら失礼

とてもよかったです。髪の妖艶な質感が伝わってきて興奮しちゃいました。
わたしは「強制女装」ネタでよく漫画を描かせていただいてますが、実は髪フェチでもありまして、強制的に女の子の髪にされるシーンをよく異常な萌え度で描いてしまいます。今回の作品、是非参考にさせていただきたいと思います。

Re: タイトルなし

>milda7さん
強制女装に関しては私は門外漢なのですけれども、髪に対する思いには通ずるところがあるように思います。
参考にというのも過ぎた話ですが、他の創作者様に何かしら感じて頂けたのであればこれほど嬉しいことは有りません。有難うございます!

被憑依者の人格が憑依者の影響で歪む話が大好物です。
ありがとうございます。

自分の髪に欲情してイキまくり汁出しまくりの変態女子の完成とかもう最高です。
憑依者の兄ちゃんも胸にも下半身にも目もくれず髪だけに執着するのも好感持てますね。
ストイック変態ですね。
あれだけのストイックぶりがなければ里奈ちゃんも純正変態にならなかったんだろうなぁと思います。

いい精神汚染モノを読ませていただきました。
ありがとうございます。

Re: タイトルなし

>とうたろうさん
私自身もこの作品を書く中で、精神汚染良いなぁと改めて思った次第です。
そうですね。件の男は制限時間はきっちり守っていましたし、魂が度を越して濃い目だったからあんなことになってしまったのだと思います。
何の罪もないのに変態にされてしまった里奈ちゃんは本当にお気の毒で…。欲求に真っ直ぐ過ぎるというのも考えものですね。
ともあれ楽しんで頂けたのであれば幸いです。有難うございます!

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Author:ぽぜおくん
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